Archive -東日本大震災のデータ分析-

ここに掲載しているのは、シンキング・バーズが、かつて行った東日本大震災に関するデータ分析です。
ご承知の通り東日本大震災は、戦後史上最大の自然災害になりました。私たちは、あの震災に際して、日々更新されて行く被害の規模と状況の推移に、そもそもどこで何が起こったのかを、私たちなりに把握しようと努めました。これは、その記録です。
 東日本大震災に関する著述や論考は、すでに多くの方が著しておられます。あえて私たちの記録を、公開する必要はないのかもしれません。さらに、震災の全容を把握するには、私たちは余りに力不足でした。しかし、東日本大震災とは何だったのかをあらためて考えて頂く時に、資するところがあれば幸いと考えています。
 作業当時のデータ分析のため、最新データとの不整合があるかもしれないことを、あらかじめ申し添えます。
 なお、このページは全1ページで構成されています。



 2011年3月

◆11日午後2時46分
 三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震が発生した。宮城県栗原市で震度7の揺れを観測したのをはじめ、北海道から中部地方までの広い範囲で大きな揺れを感じた。


【写真】地震後の周辺の状況(岩手県一関市)

◆11日午後3時20分頃~
 巨大な津波が、青森県から千葉県にかけての太平洋沿岸地域に押し寄せた。気象庁は、地震発生直後に東北地方太平洋沿岸に「大津波警報」を発令、その地域を順次拡大した。
  岩手県から福島県にかけての地域では、最大16メートルの高さに達する津波になり、大槌、陸前高田、気仙沼、南三陸、石巻などの街が壊滅状態に陥った。福島県では、福島第一原子力発電所が大津波に襲われ、浸水による電源喪失で危機的状態に陥り放射性物質が飛散、近隣住民は長期避難を余儀なくされた。

 千葉県や茨城県など、関東地方では、液状化現象が各地で発生し、住宅が傾くなどの被害が続出した。

 気象庁はこの地震を、「平成23年東北地方太平洋沖地震」と命名した。

用語の解説

◆連動型地震

 東北地方太平洋沖地震は、複数の巨大地震がほぼ同時に連動して発生したと考えられている。防災科学技術研究所が運用している日本全国の強震観測網K-NET・KiK-netのデータ解析結果によると、大きな断層破壊が3回は起こったと推測されている。最初の断層破壊が震源付近であり、その数10秒後に震源の沖合で2回目の大きな断層破壊が起こった。さらに、ほとんど間をおかずに3回目の断層破壊が茨城県北部の沖合で起こったと考えられる。
 日本付近でのこうした巨大連動型地震の発生は、これまで想定されておらず、日本の地震科学の常識を覆すことになった。

◆震源域

 南北約200km、東西約500kmに及ぶ広大なエリアを震源とする地震の発生は、「震源域」という広範囲の発震エリアを一般化させた。それまで「震源」、あるいは「震源地」として馴染んでいた概念は、点ではなく面で発生する巨大地震概念へとシフトすることになった。
 その結果、駿河湾から四国沖まで伸びる「南海トラフ」で、発生する可能性のある巨大連動型地震を想定した防災モデルの再構築が求められることになった。

◆誘発地震

 東北地方太平洋沖地震に伴う活発な余震活動が、長期間にわたって続いてた。また、余震域から離れた地域でも、巨大地震に誘発された可能性がある地震が発生した。これは、巨大地震の発生後は、地殻変動の影響を受けた場所では、どこでも「誘発地震」が起こる可能性があることを示唆している。地震国であり、火山国でもある日本では、火山活動が誘発されるとの指摘もある。

2011年3月11日14時46分の地震

マグニチュ-ド 9.0
震   源 三陸沖(牡鹿半島の東南東、約130km付近
震源の深さ 約24km
発震機構等 西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型(CMT解)
最 大 震 度 7(宮城県栗原市)
津 波 警 報 岩手、宮城、福島3県に発令(3月11日14時49分)、その後、順次追加発令し、同日22時53分に北海道から四国(高知県)までの太平洋沿岸地域に発令する。
   

各地の震度(市町村別)―震度4以上―

震 度 都道府県名 市 町 村 名
震度7 宮城県 栗原市
震度6強 宮城県 仙台市宮城野区、石巻市、大崎市、登米市、塩竈市、東松島市、名取市、涌谷町、美里町、山元町、川崎町、蔵王町、米山町、大衡村
福島県 須賀川市、白河市、国見町、新地町、浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、鏡石町、天栄村
茨城県 日立市、高萩市、常陸大宮市、笠間市、鉾田市、那珂市、筑西市、小美玉市
栃木県 宇都宮市、大田原市、真岡市、高根沢町、市貝町
震度6弱 岩手県 一関市、奥州市、花巻市、釜石市、大船渡市、矢巾町、滝沢村
宮城県 仙台市青葉区、仙台市若林区、気仙沼市、仙台空港、岩沼市、白石市、角田市、南三陸町、富谷町、大和町、大郷町、利府町、松島町、亘理町、大河原町
福島県 郡山市、いわき市、相馬市、南相馬市、伊達市、田村市、二本松市、川俣町、桑折町、矢吹町、棚倉町、猪苗代町、広野町、小野町、浅川町、玉川村、飯舘村、川内村、中島村、西郷村
茨城県 水戸市、取手市、土浦市、北茨城市、ひたちなか市、常陸太田市、つくば市、つくばみらい市、常総市、桜川市、行方市、かすみがうら市、稲敷市、坂東市、潮来市、鹿嶋市、石岡市、茨城町、城里町、東海村、美浦村
栃木県 那須塩原市、那須烏山市、那須町、那珂川町、芳賀町
千葉県 成田市、印西市
埼玉県 宮代町
群馬県 桐生市
震度5強 青森県 八戸市、階上町、五戸町、東北町、おいらせ町、東通村
岩手県 盛岡市、北上市、宮古市、遠野市、八幡平市、金ケ崎町、平泉町、普代村
宮城県 仙台市太白区、七ヶ浜町、丸森町、柴田町、色麻町、加美町
福島県 福島市、会津若松市、喜多方市、本宮市、磐梯町、会津美里町、会津坂下町、三春町、古殿町、石川町、矢祭町、湯川村、葛尾村、平田村、泉崎村、大玉村
秋田県 秋田市、大仙市
山形県 米沢市、尾花沢市、上山市、中山町
茨城県 牛久市、下妻市、龍ケ崎市、結城市、古河市、神栖市、守谷市、大洗町、境町、五霞町、八千代町、河内町、阿見町、大子町
栃木県 足利市、小山市、下野市、日光市、佐野市、栃木市、鹿沼市、矢板市、さくら市、岩舟町、茂木町、益子町、上三川町
千葉県 千葉市中央区、千葉市若葉区、千葉市美浜区、千葉市花見川区、成田国際空港、浦安市、柏市、銚子市、習志野市、八千代市、佐倉市、野田市、山武市、香取市、白井市、旭市、東金市、鋸南町、栄町、白子町、多古町、神崎町
埼玉県 さいたま市中央区、さいたま市大宮区、熊谷市、春日部市、川口市、戸田市、草加市、久喜市、深谷市、鴻巣市、羽生市、東松山市、加須市、行田市、吉川市、幸手市、三郷市、杉戸町、白岡町、川島町、吉見町
群馬県 前橋市、高崎市、太田市、渋川市、沼田市、邑楽町、大泉町、千代田町、明和町
東京都 千代田区、中野区、板橋区、江東区、江戸川区、新島村
神奈川県 横浜市中区、横浜市西区、横浜市神奈川区、横浜市港北区、川崎市川崎区、小田原市、二宮町、寒川町
山梨県 中央市、忍野村
震度5弱 青森県 十和田市、南部町、三戸町、六戸町、七戸町、野辺地町
岩手県 大船渡市、二戸市、久慈市、紫波町、雫石町、岩手町、山田町、葛巻町、野田村
福島県 南会津町、西会津町、柳津町、塙町、下郷町、鮫川村
秋田県 横手市、由利本荘市、井川町
山形県 酒田市、鶴岡市、東根市、天童市、新庄市、村山市、南陽市、最上町、舟形町、川西町、高畠町、大石田町、河北町、山辺町、白鷹町、庄内町、遊佐町、三川町、戸沢村、大蔵村
茨城県 利根町
栃木県 野木町、壬生町、西方町、塩谷町
千葉県 千葉市緑区、千葉市稲毛区、松戸市、船橋市、市川市、我孫子市、館山市、市原市、八街市、四街道市、鎌ケ谷市、流山市、南房総市、いすみ市、君津市、木更津市、茂原市、富里市、匝瑳市、九十九里町、酒々井町、横芝光町、長睦沢町、芝山町、大網白里町、東庄町、長生村
埼玉県 さいたま市岩槻区、さいたま市浦和区、川越市、所沢市、秩父市、蕨市、越谷市、上尾市、本庄市、狭山市、鶴ヶ島市、坂戸市、蓮田市、富士見市、鳩ヶ谷市、八潮市、北本市、桶川市、新座市、和光市、志木市、朝霞市、横瀬町、松伏町、毛呂山町、三芳町、伊奈町、上里町、美里町、嵐山町
群馬県 館林市、伊勢崎市、安中市、みどり市、板倉町、吉岡町、中之条町
東京都 新宿区、中央区、渋谷区、品川区、豊島区、文京区、台東区、杉並区、目黒区、世田谷区、墨田区、練馬区、荒川区、足立区、葛飾区、東京国際空港、八王子市、町田市、調布市、府中市、三鷹市、武蔵野市、小金井市、小平市、西東京市、国分寺市、東村山市、日野市、稲城市、多摩市、清瀬市、東大和市、狛江市
神奈川県 横浜市青葉区、横浜市港南区、横浜市戸塚区、横浜市保土ケ谷区、横浜市南区、横浜市都筑区、横浜市泉区、横浜市瀬谷区、横浜市緑区、横浜市旭区、川崎市中原区、川崎市幸区、川崎市宮前区、相模原市中央区、相模原市緑区、茅ヶ崎市、平塚市、伊勢原市、厚木市、綾瀬市、座間市、海老名市、大和市、南足柄市、松田町、大井町、中井町
新潟県 魚沼市、刈羽村
山梨県 甲府市、甲州市、北杜市、笛吹市、南アルプス市、富士河口湖町、富士川町、市川三郷町、山中湖村
長野県 佐久市、南牧村
静岡県 御殿場市
震度4 北海道 函館市、釧路市、帯広市、苫小牧市、千歳市、新千歳空港、岩見沢市、北斗市、様似町、浦河町、新ひだか町、新冠町、平取町、むかわ町、鹿追町、白糠町、大樹町、浦幌町、十勝池田町、芽室町、音更町、厚真町、中富良野町、長沼町、南幌町、上ノ国町、知内町、新篠津村、更別村
青森県 青森市、弘前市、むつ市、三沢市、五所川原市、黒石市、つがる市、平川市、大間町、田子町、横浜町、藤崎町、外ヶ浜町、鶴田町、板柳町、今別町、平内町、六ヶ所村、西目屋村、田舎館村、新郷村、蓬田村
岩手県 西和賀町、洋野町、田野畑村、九戸村
福島県 只見町、昭和村、北塩原村、檜枝岐村
秋田県 能代市、大館市、男鹿市、湯沢市、北秋田市、鹿角市、にかほ市、潟上市、美郷町、羽後町、三種町、大潟村、八郎潟町、五城目町、藤里町、上小阿仁村、東成瀬村
山形県 山形市、寒河江市、長井市、飯豊町、大江町、西川町、真室川町、朝日町、小国町、金山町、羽黒町、鮭川村
千葉県 袖ケ浦市、富津市、鴨川市、勝浦市、御宿町、大多喜町、長南町、長柄町、一宮町
埼玉県 飯能市、東松山市、入間市、ふじみ野市、日高市、長瀞町、越生町、寄居町、小川町、小鹿野町、皆野町、ときがわ町、神川町、鳩山町、滑川町、東秩父村
群馬県 富岡市、草津町、東吾妻町、みなかみ町、甘楽町、神流町、嬬恋村、上野村、榛東村、昭和村、片品村、高山村
東京都 港区、大田区、青梅市、東久留米市、国立市、昭島市、羽村市、日の出町、神津島村
神奈川県 横浜市磯子区、横浜市鶴見区、横浜市栄区、横浜市金沢区、川崎市高津区、川崎市麻生区、川崎市多摩区、横須賀市、鎌倉市、藤沢市、秦野市、三浦市、逗子市、大磯町、葉山町、愛川町、真鶴町、箱根町、開成町、山北町、清川村
新潟県 新潟市中央区、新潟市東区、新潟市西区、新潟市南区、新潟市北区、新潟市西蒲区、新潟市秋葉区、新潟市江南区、新潟空港、長岡市、上越市、柏崎市、三条市、新発田市、阿賀野市、燕市、見附市、十日町市、加茂市、佐渡市、胎内市、五泉市、村上市、阿賀町、聖籠町、出雲崎町、田上町、関川村、弥彦村
山梨県 山梨市、韮崎市、甲斐市、大月市、都留市、富士吉田市、上野原市、身延町、昭和町、南部町、西桂町、丹波山村、小菅村、鳴沢村、道志村
長野県 長野市、諏訪市、上田市、小諸市、飯田市、茅野市、伊那市、駒ヶ根市、軽井沢町、木曽町、南木曽町、高森町、松川町、飯島町、佐久穂町、富士見町、立科町、御代田町、川上村、宮田村、原村
静岡県 静岡市葵区、静岡市駿河区、静岡市清水区、沼津市、三島市、伊東市、熱海市、袋井市、磐田市、牧之原市、藤枝市、焼津市、富士市、富士宮市、伊豆の国市、裾野市、小山町、長泉町、清水町、函南町、西伊豆町、松崎町、河津町、東伊豆町
愛知県 名古屋市守山区、名古屋市港区、名古屋市熱田区、名古屋市千種区、愛西市、稲沢市、弥富市、みよし市、あま市、蟹江町、東郷町、飛島村
岐阜県 海津市

※出典:気象庁発表データ(2011年4月30日現在)

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土砂災害の発生

 巨大地震の強い揺れで、東日本を中心に、各地でがけ崩れなどの土砂災害が発生した。国土交通省のまとめによると、2011年3月から4月にかけての地震による土砂災害は、全国で141件(2012年1月10日現在)、土砂に埋もれるなどで19人の方が亡くなった。

   

発生した主な土砂災害

県  名 土石流等 地すべり がけ崩れ 集落雪崩
青森県 1(田子町)
岩手県 1(一関市) 3(釜石市、奥州市、陸前高田市)
宮城県 2(仙台市、大崎市) 4(仙台市3、白石市1)全半壊3戸 12(石巻市6、東松島市2、登米市2、仙台市1、大郷町1)半壊1戸
山形県 2(山形市、大蔵村) 1(東根市)
福島県 1(福島市) 6 (福島市3、白河市2、いわき市1)全半壊12戸・死者14人 29 (いわき市16、田村市3、福島市2、平田村2、白河市1、郡山市1、須賀川市1、二本松市1、古殿町1、中島村1)全半壊7戸・死者3人
茨城県 1(桜川市) 2(水戸市、常陸大宮市) 22 (常陸太田市3、水戸市2、日立市2、鹿嶋市2、笠間市1、龍ケ崎市1、小美玉市1、稲敷市1、茨城町4、潮来町4、大洗町1)半壊1戸
栃木県 1(那須烏山市) 5 (那須烏山市1、高根沢町2、那珂川町1、那須町1)全半壊12戸・死者2人 5 (那須烏山市1、さくら市1、大田原市1、高根沢町1)全壊1戸
群馬県 1(桐生市)
千葉県 16 (香取市4、多古町4、旭市3、千葉市1、船橋市1、成田市1、佐倉市1、栄町1)
新潟県 3(十日町市1、津南町2) 12 (十日町市8、上越市1、津南町3)全半壊2戸 2(津南町) 2(南魚沼市、十日町市)
長野県 3(栄村2、野沢温泉村1) 1(栄村)
静岡県 3(富士見市)
※注)3月12日の長野県東部の地震、同15日の静岡県東部の地震等による被害を含む。

土砂災害に伴う主な避難勧告等

発令月日 種  別 県  名 市町村名 地 区 数 世 帯 数 人  数
3月11日 避難指示
福島県
福島市 1 101 224
3月12日 避難勧告 郡山市 1 11 26
避難指示 長野県 栄村 1,830
避難勧告
新潟県
十日町市 2 11 24
避難勧告 津南町 2 4 14
避難勧告 茨城県 茨城町 1 3
3月13日 避難勧告 福島県 白河市 1 37 96
避難指示 茨城県 水戸市 1 30 58
避難勧告 新潟県 津南町 1 3 7
3月14日 立入制限 宮城県 仙台市 1 43 37

※出典:国土交通省『東日本大震災(第105報)』(平成24年1月10日)

用語の解説

◆土石流

 豪雨で増水した沢などで、大量の土砂を含んだ水が、一気に流れ下る現象。地震の場合、水を含んだ山肌が崩れることで起こる可能性がある。状況によっては流速60km/時に達し、川沿いを数キロにわたって、土石を含んだまま移動することがある。

◆地すべり

 山などの斜面が、斜面ごと下に滑り落ちるように移動する現象。大雨などによる地下水位の上昇、地震の震動などで起こる。

◆がけ崩れ

 急勾配の斜面が、地震や豪雨などで崩れ落ちる現象。規模は局所的だが、突発的に発生する。丘陵地への宅地造成などにより、がけ地に近い場所で、人家を巻き込む被害を及ぼすことがある。

◆集落雪崩(なだれ)

 山の斜面に積もった雪が、雪崩となって大量に滑り落ち、人家がある集落にまで達する現象。家屋の倒壊や人が生き埋めになる災害を招くことがある。

◆その他

 この震災では発生しなかったが、「山腹崩壊(地震や火山活動などで、山全体が崩壊して大きく変形する現象)」などがある。

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全域での停電

 東北地方太平洋沖地震により、東北地方では、ほぼ全域で停電が発生した。東北電力が公表した『地震発生による停電等の影響について(3月31日最終報)』によると、延べ停電戸数は、486万1,246戸(3月12日に長野県で発生した地震による新潟県の停電を含む)に上った。資料によると、東北各地の6火力発電所10機が、自動停止または手動等により停止した。
 停電の解消は、順次図られたが、宮城県の復旧は長引き、地震から10日後の3月20日時点で、ほぼ全域16万3,550戸が停電状態のままだった。また、津波による被害が大きかった地域の電力復旧は、道路等の公共インフラを含む破壊が激しく、さらに遅れた。

出典:東北電力(株)『地震発生による停電等の影響について』(平成23年 3月11日~同31日)、同『東日本大震災による停電の状況と今後の復旧見通しについて』(平成23年4月28日)

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津波の襲来

 東北地方太平洋沖地震は、巨大な津波を発生させた。大津波は、東北地方から関東地方の太平洋沿岸地域を中心に、最大数十mに達する規模で襲来した。気象庁が発令した「大津波警報」は、ほぼ全国に及んだ。
 この津波により、下地図の青表示の道県を中心に、市街地が壊滅状態になるなど、甚大な被害が発生した。福島県では、福島第一原発が津波の襲来で全電源喪失の状態に陥り、稼働中だった原発が、重大な事故を起こすことになった。
 また、ハワイやアメリカ西海岸など、環太平洋地域でも津波が観測された。

日本地図 地点ごとの津波の高さ 最大波の予想時刻、震源からの距離を掲載 ●主な第一波観測時刻(気象庁データ)  14:48(2分後) 釜石沖(0.5mの引き波)  14:52(6分後) 小名浜沖(1mの押し波)  15:01(15分後) 宮古(1.24mの引き波)  15:08(22分後) 小名浜(2.6mの押し波)  15:13(27分後) 銚子(2.3mの押し波)  15:17(31分後) 大洗(1.7mの押し波)  15:20(34分後) 浦河(0.2mの引き波)  15:21(35分後) 八戸(0.7mの引き波)  15:24(38分後) 館山(1.42mの押し波)  ※上記以外に、岩手~福島の観測地点で14時台に引き波観測 震源

 左地図の都道府県をクリックすると、ここに津波データが表示されます(IE11、Google Chrome70.0.3538.110で動作確認)。


用語の解説

◆浸水高

 津波到達時の潮位から津波の痕跡までの高さ。

◆遡上高

 津波到達時の潮位から津波が駆け上がったところまでの高さ。

◆津波の高さ

 津波到達時の潮位から検潮所(海岸部)で記録された高さ。

 ※出典:『今回の津波の浸水範囲と痕跡』(「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会第1回会合」参考資料3による)


 表示データの原典は、気象庁観測データ、または、2011年3月から4月に東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループが現地調査したデータによる。福島県大熊町は、東京電力の事故報告書による。現地調査データは、信頼度が高いとして「A」評価した数値のうち、任意に地域別の数値を抽出した。
 最大波の予想発生時刻の記載があるデータは、原典を引用した。現地調査データは、最大波の予想発生時刻の妥当性確認はできないが、そのまま引用した。最大波到達までの時間は、地震発生時刻の14時46分と引用データから独自に計算した。
 震源からの距離は、観測地点の緯度経度と震源の緯度経度から、独自に直線距離を計算した。

 なお、出典元のデータに関して、現地調査とデータ作成に携わられた東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループの名称は、以下の通り。

【調査機関名】気象庁、国土交通省東北地方整備局、国土交通省国土技術政策総合研究所、北海道大学、秋田大学、東北大学、茨城大学、筑波大学、群馬大学、埼玉大学、千葉工業大学、東京大学、東京海洋大学、早稲田大学、防衛大学校、横浜国立大学、長岡技術科学大学、静岡大学、豊橋科学技術大学、名古屋大学、福井大学、京都大学、大阪大学、関西大学、神戸大学、徳島大学、高知大学、鹿児島大学、琉球大学、気象研究所、電力中央研究所、港湾空港技術研究所、農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究所、産業技術総合研究所、建築研究所、国際協力機構
出典:気象庁『気象庁技術報告 第133号』(2012年)、東京電力(株)『福島原子力事故調査報告書』(平成24年6月20日)

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交通網の寸断

 東北地方太平洋沖地震により、東日本のほとんどの地域で交通網が寸断状態に陥った。
 鉄道は、東北地方の各線が全面運休、関東地方でも、ほとんどの路線が運休になった。
 道路は、高速道路が亀裂などの損壊が多地点で発生したことから、東北方面の一般車両の乗り入れは禁止。一般道の通行止めは、国道・県道等を含めて、711区間に上ったとされる。また、津波から避難する自動車の列によって、各地で渋滞が発生した。

 通行止めの一つの要因となった橋梁への被害は、岩手・宮城・福島3県の太平洋沿岸地域で、96橋が波にのまれて流出する被害を受けた(国土交通省国土技術政策総合研究所の資料による)。茨城県鉾田市の鹿行(ろっこう)大橋は、地震の揺れで落橋した。

 交通網の寸断は、物流に大きな影響を与えた。石油製品(ガソリン、灯油、軽油等)は、石油精製施設が被災したこともあり、半月以上も供給不足が続くなど、混乱した。また、市町村道の寸断で、陸上往来できない孤立地点が生じた。

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住民の避難

 東北地方太平洋沖地震の発生後、どれくらいの住民が避難行動をとったのかの推計は、極めて難しい。総務省消防庁の集計によると、地震から3日目の避難者数が全国で約47万人に達し、警視庁調べを元に国土交通省が作成した資料でも、3日目が46万8,600人でピークになっている。また、消防庁調べによる地震後21日目の2011年3月31日時点の避難者数は、約20万9,000人で、ピーク時に比べて約26万人減少している。この数値が、自宅損壊等をまぬがれた短期避難者と推定される。
 しかし、地震発生当日の避難者数の把握は、市町村の行政機能の状態でバラツキが大きい。機能麻痺に近い状態に陥った津波被災市町村などは、実数把握がほとんど困難だった。そのため、数日から1週間後に実数が徐々に判明した。一方、行政機能をほぼ保持した市町村では、当初から避難者の実数を、一定の精度で把握していた。しかし、避難住民の帰還が早くから始まり、1週間後には激減した。
 このため、避難の実態が徐々に明らかになって行った地域と、当初から避難の実態が明らかで短期避難者が多かった地域の合算が、3日目のピークを生んだ。実態は、発災当日の避難者が最も多かったと考えるのが妥当で、その数は推計されていない。
 私たちは、資料入手が可能だった岩手県と宮城県について、3月12日集計分(実質3月11日に避難所に宿泊)から1週間の集計を参照した。

住民の避難の推移(岩手県と宮城県)

津波未被災市町村
単位:避難者(人)、避難所(箇所)
岩  手  県

市町村
3月12日 3月13日 3月14日 3月15日 3月16日 3月17日 3月18日
避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所
花巻市 355 355 41 35 35 1 32 1 32 1
奥州市 189 98 98 7 98 7 37 4
一関市 2,330 40 2,371 40 2,050 1,320 1,320 31 1,320 31 330 15
(旧)藤沢町 36 1 36 1
(旧)滝沢村 424 10 424 10 42 23 23 1
盛岡市 4,173 4,173 586 364 364 15 364 15 115 6
北上市 829 21 829 21 79 106 106 3 106 3 106 3
遠野市 2,027 50 2,027 50 131 200 200 5 200 5 200 5
八幡平市 27 1 27 1
平泉町 34
二戸市 85 85
雫石町 30 4 30 4 1
岩手町 23 2 23 2
紫波町 31 4 31 4
矢巾町 60 60
住田町 2 4 4 1 4 1 4 1
軽米町 2 2
一戸町 6 6
小計 10,438 10,479 3,155 2,150 2,150 64 2,124 63 824 35

宮  城  県

市町村
3月12日 3月13日 3月14日 3月15日 3月16日 3月17日 3月18日
避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所
栗原市 2,646 45 2,775 42 2,697 52 2,541 36 2,136 36 929 20 169 6
登米市 5,725 50 5,688 50 6,261 49 6,261 49 4,800 50 4,800 50 4,800 50
大崎市 2,700 21 2,700 21 2,700 21 9,670 95 9,670 95 9,670 95 3,303 70
蔵王町 300 245 7 284 10 144 10 119 10 118 10 42 10
川崎町 188 5 138 5 126 6 138 6 138 6 33 3
涌谷町 413 18 447 19 512 17 523 17 511 17 511 17 421 17
美里町 2,100 2,222 18 2,019 19 1,684 19 1,292 18 1,292 18 1,076 18
大衡村 234 6 92 4 92 4 92 4
白石市 1,700 22 1,700 22 1,700 22 1,294 11 882 11 645 8 645 8
角田市 320 13 299 5 282 4 272 4 302 4 225 4
大河原町 1,713 18 1,490 16 1,116 14 994 12 50 1 50 1 75 1
(旧)富谷町 3,000 27 3,000 27 3,000 27 3,000 27 695 11 652 9 652 9
大和町 1,430 12 1,513 16 1,513 12 304 12 24 1 14 1 13 1
大郷町 384 8 203 7 185 4 185 4 185 4 45 2 45 2
丸森町 183 12 158 11 181 10 117 5 311 5 13 2 5 1
柴田町 1,130 7 466 6 880 7 880 7 880 7 187 5 42 4
色麻町 82 2 1 14 1
加美町 367 11 315 12 250 6 244 6 256 6 256 6 25 2
村田町 300 6 171 6 173 6 185 5 185 5 185 5 185 5
七ヶ宿町 26 2 40 3 49 4 49 4 49 4
小計 24,099 261 23,641 302 24,205 297 25,575 306 22,547 295 19,899 263 11,756 212
※市町村の着色は最大震度:震度7、震度6強、震度6弱、震度5強、震度5弱、無着色は公表震度なし。「‐」は数値不明。
※3月15日の岩手県北上市及び遠野市の避難者増は、津波被災地域からの避難者受け入れか。
※未掲載の岩手県西和賀町、金ヶ崎町、九戸村は、当初から避難者なしと見られる。
出典:岩手県災害対策本部(情報班)『避難者情報、救援ニーズ情報』(平成23年3月12日~同18日)
   宮城県『平成23年3月11日地震被害等状況』(平成23年3月12日~同18日)

岩手県・宮城県の避難者数の推移(津波未被災市町村) 3月12日~18日

解  説

 岩手・宮城両県の内陸部にあり、津波の襲来がなかった市町村の住民避難は、概ね1週間以上は続いた。だが、岩手県北部などでは、早い所で地震から3日目(14日)には解消した。
 表中での注目は、最大震度7を観測した宮城県栗原市の避難者数の推移。地震から5日目(16日)まで、避難者数は2,000人台だが、その後激減し、1週間後は100人台になった。宮城県の資料によると、同市の震災被害は、死者・行方不明者なし、重傷6人、家屋全半壊430戸など。「復旧」のための帰還が、早期に始まったと考えられる。
 両県を合わせた内陸部の避難者数は、地震翌日(12日)の3万4,500人余りを最高に、その後は減少した。一定の精度で避難者数を把握できた市町村の合計は、当然の結果だが、地震翌日が最大になった。
 いわゆる「カラ避難」は、近年の自然災害の多発で、重要な避難行動とされている。東日本大震災に際して、住民のとった避難行動は、一定の範囲でそれをわきまえていたと言える。

住民の避難の推移(岩手県と宮城県)

津波被災市町村
単位:避難者(人)、避難所(箇所)
岩  手  県

市町村
3月12日 3月13日 3月14日 3月15日 3月16日 3月17日 3月18日
避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所
宮古市 4,714 4,714 8,836 5,510 5,510 56 5,510 56 7,857 66
久慈市 1,350 25 1,350 25 305 143 143 4 82 4 82 4
大船渡市 7,359 7,545 47 8,437 8,737 8,737 60 8,737 60 7,243 57
陸前高田市 140 2 140 2 9,252 63 9,076 63 9,076 62 10,547 62 10,547 62
釜石市 8,795 8,939 8,630 7,401 47 7,905 53 7,905 53 7,905 53
大槌町 1,680 2,800 5 5,144 3 5,144 5,144 6,221 6,221
山田町 8,984 8,984 8,989 5,677 5,677 31 5,677 31 5,677 31
岩泉町 340 357 357 6 357 6 351 5
田野畑村 601 1 601 1 601 594 594 1 600 1 600 4
普代村 219 3 218 3 71
野田村 810 5 810 5 712 638 638 11 638 11 638 11
洋野町 319 12 319 12 19 14 14 1 15 1 15 1
小計 34,971 36,420 48,336 43,291 43,291 279 46,289 285 48,630 297

宮  城  県

市町村
3月12日 3月13日 3月14日 3月15日 3月16日 3月17日 3月18日
避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所
仙台市 96,710 328 70,467 247 70,467 247 70,467 247 70,467 247
石巻市 10,000 70 15,000 179 111,295 179 111,295 179 43,647 170 43,647 170 40,601 250
塩釜市 8,079 35 8,079 35 8,079 35 8,236 45 8,236 45 5,079 40 5,079 40
気仙沼市 20,360 64 15,159 97 17,324 92 19,085 92 19,021 92 19,021 92 19,021 92
名取市 9,888 37 7,888 45 7,012 37 8,329 41 4,884 30 4,884 30 3,696 30
多賀城市 9,971 32 9,718 31 10,902 41 10,902 41 10,902 41 10,902 41 10,902 41
岩沼市 5,700 5,700 5,700 5,300 18 5,300 18 5,300 18 5,300 18
東松島市 368 5 368 5 13,376 81 13,449 68 13,712 68 13,712 68 14,110 88
亘理町 7,800 41 6,699 14 6,169 7 6,170 7 5,420 7 4,562 6 4,582 6
山元町 4,191 18 5,936 19 5,936 19 3,712 14 3,931 15
松島町 1,900 14 1,900 14 1,900 14 1,900 14 1,900 14 1,900 14 1,900 14
七ヶ浜町 2,733 3,871 32 3,871 32 3,871 32 3,871 32 3,871 32 3,871 32
利府町 1,920 23 1,331 11 618 5 205 3 205 3 104 2
女川町 1,160 1,160 1,160 5,500 17 5,500 17 5,500 17 5,500 17
南三陸町 7,500 25 7,660 11 9,700 54 9,700 54 9,700 54 9,700 54
小計 77,959 298 84,962 392 296,680 886 210,291 632 138,234 610 131,995 599 128,297 699
※市町村の着色は津波浸水地域があることを示す。「‐」は数値不明。
※実数とは考えにくい数値が当初データの各所にあり、実態把握が困難だった状況が現れている。
出典:岩手県災害対策本部(情報班)『避難者情報、救援ニーズ情報』(平成23年3月12日~同18日)
   宮城県『平成23年3月11日地震被害等状況』(平成23年3月12日~同18日)

岩手県・宮城県の避難者数の推移(津波被災市町村) 3月12日~18日

解  説

 津波で被災した市町村の住民避難のデータは、地震翌日から数日間は、ほとんどあてにならない。
 岩手県では、陸前高田市が学校に避難した生徒などの確認できる範囲の概数、宮城県では、仙台市が集計に手間取り未公表、石巻市が概数になるなど、実態が把握できない市町村が多かった。
 そのため、岩手県では地震から1週間後の18日が最大値(4万8,630人)になり、宮城県では4日後の14日が最大値(29万6,680人)が最大値になった。また、石巻市のように、14日に11万1,295人と急増した数値が、2日後の16日には4万3,647人に大きく修正されるなど、当時の集計作業の混乱と実態把握の困難さが如実に現れている。
 こうしたことから、両県の当初避難者数は、どのように推計しても推測の域を出ない。私たちは、地震翌日の3月12日の避難者数が、最も多かった可能性が高いと考え、岩手県で概ね5万人、宮城県で少なくとも15万人から20万人と推測した。両県で20万人から25万人程度になる。これに津波未被災地域の最大3万4,000人を加えると、23万4,000人から28万4,000人になる。
 これは、消防庁が示す全国で最大約47万人という避難者数の50%~60%を占める。福島県や関東地方などの避難者を考慮すると、この割合は、どう考えても高すぎる。
 このため、東日本大震災の当初避難者は、47万人よりはるかに多かった可能性が高い、と私たちは考えている。
 大規模災害からの避難は、行政機関の事態把握能力ばかりでなく、対応能力を超えることがある。住民は、発災から3~4日程度、自力で避難行動をとる必要に迫られる可能性がある。

関連用語

◆津波てんでんこ

 岩手県出身の津波災害史研究家・山下文男氏らによって提唱された津波防災標語。「津波が来たら、取る物も取り敢えず、肉親にも構わずに、各自てんでんばらばらに一人で高台へと逃げろ」という意味。「てんでんこ」は、「それぞれに」「各自に」を意味する東北地方のことば。ただし、逃げることが困難な乳幼児や高齢者などの救命策は、課題として残されている。

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通信の遮断

 東北地方太平洋沖地震により、東北地方では、電話通信網が各地で損壊し、通信できない状態に陥った。NTT東日本の公表資料によると、固定電話等の通信設備は、385ビルが損壊や水没の被害を受け、約150万契約の回線が利用できない状態になった。
 携帯端末は、NTTドコモが3月12日時点で4900基地局がサービスを中断、下地図の青色のエリアが通信できない状態になった。auは、3月12日時点で3,680基地局が影響を受け、東北地方と関東地方、新潟県などの広い範囲で、通信障害が起こった地域が多発した。ソフトバンクモバイルは、下地図の灰色のエリアで通信障害が発生した。
 各社とも、4月にはほとんどの地域で通信状態の復旧を終えたが、巨大災害に伴う通信の遮断は、電力依存社会の落とし穴を浮き彫りにした。

出典:東日本電信電話(株)『東日本大震災の復旧状況等について』(平成23年4月27日)、(株)NTTドコモ『東北地方太平洋沖地震への対応状況(復旧計画)について』(2011年3月30日)、『au基地局の障害によりご利用いただけない地域について』(2011年3月18日)、ソフトバンクグループ『東日本大震災による被害への対応状況と今後の見通しについて』(2011年4月14日)

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福島第一原発事故

 福島第一原発事故は、私たちの想像をはるかに超えた災害だ。私たちはこれまで、この事故に関する一連の事態の推移や動きについて、言及を避けて来た。それは、原子力発電に関する知見がないこと、すでに報じられた事故の経緯や対応を検証するすべがないこと、公開されている多方面の文書が膨大すぎることなど、私たちの手に余る要素が、多すぎるためだった。
 しかし、私たちの暮らす地域は、この事故で飛散した放射性物質の影響により、一部の地域で学校などの除染を余儀なくされた。農産物等の出荷規制を強いられた地域もある。原発事故の被害は、私たちの地域ばかりではなく、関東地方を含めた広い範囲に及んだ。
 私たちは、福島県で起こった事態をどのように受け止めれば良いのか、今も良くわからない。無関心ではいられないことだが、関心の示し方に戸惑う。そのことを踏まえて、事故の推移を羅列する。

福島第一原発事故の推移(抜粋)



月日


時刻
出  来  事
福島第一原発の動き
政府等の対応
1号機 2号機 3号機 4号機
3月11日 14:46 東北地方太平洋沖地震が発生。
自動停止(運転中) 自動停止(運転中) 自動停止(運転中) 停止中
15:27 津波第一波が到達
15:35 津波第二波が到達、防潮堤を越えた波により浸水
15:37 全交流電源喪失
15:38 全交流電源喪失
15:41 全交流電源喪失
15:42 緊急時対策本部を設置、官庁等に報告
15:45 オイルタンクが津波で流出(非常用燃料を喪失)
16:36 炉心冷却不能に
19:00 この頃からメルトダウンか
19:03 首相が、原子力緊急事態宣言
20:50 福島県が、原発から半径2km圏内の住民に避難指示
21:23 首相が、原発から半径3km圏内の住民に避難指示、半径3~10km圏内の住民に屋内退避を指示
21:51 原子炉建屋の放射線量が上昇
3月12日 0:49 格納容器圧力が異常上昇と判断
1:30 首相と経産大臣が、原子力安全・保安院にベント実施を申し入れ
4:00 消防車で原子炉への淡水注入開始
5:14 発電所構内の放射線量が上昇、外部に漏えいが発生と判断
5:44 首相が、原発から半径10km圏内の住民に避難指示
6:00 燃料棒の大部分がメルトダウンか
6:50 経産大臣によるベント実施命令
7:11 首相が、原発を視察
9:15 手動でベント操作するも、不十分
12:35 原子炉の水位低下で高圧注水系起動
14:30 ベント「開」に成功
15:36 建屋で水素爆発、建屋大破
16:27 敷地境界の放射線量が1,015マイクロシーベルト/時まで異常上昇
17:30 ベント操作の準備を所長が指示
18:25 首相が、原発から半径20km圏内の住民に避難指示
3月13日 2:42 原子炉冷却を消火ポンプに切替
5:10 注水できず原子炉冷却機能を喪失
8:10 格納容器ベント弁を開く操作
8:41 ベント操作
9:00 この頃からメルトダウンか
14:15 敷地境界の放射線量が905マイクロシーベルト/時まで異常上昇
14:45 水素爆発の危険が高まり、現場退避
3月14日 2:42 原子炉冷却を消火ポンプに切替
4:08 使用済燃料プール温度84℃を確認
5:10 ベント操作
6:30 爆発が懸念され現場退避
11:01 建屋で水素爆発、建屋大破 放射性物質が最大拡散、北北西を中心に、ほぼ全方位に拡散
12:50 ベント弁の「閉」を確認
18:22 原子炉水位の低下で、燃料全体が露出したと判断
21:35 正門付近の放射線量が760マイクロシーベルト/時まで異常上昇
3月15日 6時から6時10分頃、4号機側から大きな衝撃音、2号機損傷
6:55 原子炉建屋5階屋根付近に損傷確認
7:00 監視・作業に必要な要員を除いて福島第二に一時退避へ
8:11 正門付近の放射線量が807マイクロシーベルト/時まで異常上昇
9:38 原子炉建屋3階付近で火災
11:00 首相が、原発から半径20km~30km圏内の住民に屋内退避指示
23:05 正門付近の放射線量が4,548マイクロシーベルト/時まで異常上昇
※出典:東京電力(株)『福島原子力事故調査報告書(別紙2)福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所における対応状況について』(平成24年6月20日)

用語の解説

◆メルトダウン

 2011年5月に旧原子力安全・保安院が、「溶けた燃料棒が原子炉下部に落ちる」ことを「メルトダウン」と定義した。(公財)原子力安全技術センター発行の『原子力防災基礎用語集』に「メルトダウン」はなく、「炉心溶融」が掲載されている。原発事故による造語か。英語では、core meltまたはcore meltingとされる。

◆ベント

(一財)日本原子力文化財団『エネ百科』によると、排出口という意味。原子炉格納容器の圧力が高まり、破損の危険を避けるため、気体の一部を外部に排出させる「格納容器ベント」を《操作すること》を指す解説がある。福島第一原発事故では、格納容器の破損を防ぐため、放射性物質を含む気体が外部へ放出された。これを教訓に、放射性物質を1000分の1以下に抑える「フィルタ付ベント」が全国の原発に設置された。ventの原義は「通気口」。

◆原子炉格納容器

 同上『エネ百科』によると、原子炉などの重要機器を覆う容器。外部への放射性物質の放出を防ぐ役割がある。福島第一原発事故では、ベント操作や水素爆発で放射性物質が放出、2号機では容器の損傷で放出が起こった。

◆シーベルト

 同上『エネ百科』によると、人体への放射線による影響を表す単位。「シーベルト」の1000分の1が「ミリシーベルト(0.001シーベルト)」、その1000分の1が「マイクロシーベルト(0.000001シーベルト)」。 日本では、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告を取り入れ、平常時の放射線の線量限度を、年間1ミリシーベルトとしている。また、原発事故などの緊急時には、ICRPが年間または一度に20~100ミリシーベルト、長期にわたる場合は年間1~20ミリシーベルトの範囲としている。


原発事故による避難指示区域からの避難者数推計

単位:人
市町村 推計避難者数 適   用
大熊町 11,505 20km圏内(全町避難・避難指示区域)
双葉町 7,100 20km圏内(全町避難・避難指示区域)
富岡町 15,830 20km圏内(全町避難・避難指示区域)
浪江町 21,177 ほぼ全域が30km圏内
(全町避難・半域が避難指示区域)
楢葉町 7,676 30km圏内(全町避難・大半が避難指示区域)
広野町 5,386 30km圏内(全町避難・緊急時避難準備区域)
川内村 2,819 30km圏内(全村避難・半域が避難指示区域)
葛尾村 1,524 ほぼ全域が30km圏内
(全村避難・半域が避難指示区域)
飯舘村 6,164 全域が計画的避難区域
川俣町 1,262 一部が計画的避難区域
田村市 4,480 半域が30km圏内(緊急時避難準備区域)
南相馬市 3,109 小高区が30km圏内(緊急時避難準備区域)
合  計 88,032人
※参照:福島県『東日本大震災の記録と復興への歩み』(平成25年3月)
※出典:大熊町『大熊町の被害・避難状況』(平成23年3月11日時点の人口)、双葉町『双葉町の人口と世帯数(東日本大震災以降)』(平成23年2月28日現在の人口)、富岡町『町の人口の動き』(平成23年3月末現在の人口)、浪江町『町民の避難状況』(平成24年11月30日現在)、飯舘村『平成23年10月1日現在の村民の避難状況』、川俣町『避難者数一覧』(平成29年4月1日現在)、田村市『田村市民の避難(帰還)状況』(20km圏内及び20~30km圏内の避難者推移グラフから推計)、南相馬市『東日本大震災災害記録誌』(平成25年3月)、広野町、川内村、葛尾村は、福島県が公表している2011年3月時点の人口推計による。


 ここに示した避難者数は、あくまで推計値。また、地震から一定の時間をおいた避難地域(飯舘村等)の人数が含まれている。

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誘発地震

 東北地方太平洋沖地震は、「余震」とは考えにくい地震を各地で発生させた。激しい揺れを伴う地震は、3月12日早朝の長野県北部を震源とする地震、3月15日の静岡県東部を震源とする地震がある。

長野県北部の地震(2011年3月12日午前3時59分)

マグニチュ-ド 6.7
震   源 長野県北部
震源の深さ 8km
震 度 都道府県名 市 町 村 名
震度6強 長野県 栄村
震度6弱 新潟県 十日町市、津南町
震度5強 新潟県 上越市
群馬県 中之条町
震度5弱 新潟県 長岡市、柏崎市、南魚沼市、湯沢町、出雲崎町、刈羽村
長野県 野沢温泉村

静岡県東部の地震(2011年3月15日22時31分)

マグニチュ-ド 6.4
震   源 静岡県東部
震源の深さ 14km
震 度 都道府県名 市 町 村 名
震度6強 静岡県 富士宮市
震度5強 山梨県 富士河口湖町、山中湖村、忍野村
震度5弱 神奈川県 小田原市、山北町
山梨県 富士吉田市、南アルプス市、市川三郷町、身延町、鳴沢村
静岡県 富士市、御殿場市、小山町

※出典:気象庁発表データ(2011年4月30日現在)

長野県北部地震の避難者

単位:避難者(人)、避難所(箇所)
長  野  県 新  潟  県
栄村 飯山市 野沢温泉村 十日町市 津南町
避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所 避難者 避難所
1,830 24 40 24 23
合計 1,894人(-避難所) 合計 47人(-避難所)
※出典:国土交通省『東日本大震災(第105報)』(平成24年1月10日)

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 2011年4月

◆宮城県気仙沼市


【写真】気仙沼市街地から国道45号を南下し大谷海岸へ向かう途上で撮影

【写真】気仙沼港付近で撮影


 東日本大震災の全容は、まだ誰も把握していなかった。私たちが目にした宮城県気仙沼市の状況は、その一部を目にしたにしか過ぎなかった。

 2011年7月

◆岩手県陸前高田市

 復興イベントが開かれた陸前高田市の会場周辺は、震災の爪痕を生々しく残したままだった。


【写真】津波にのまれた消防署の建物(左)と高田松原付近にあった道の駅(右)

【写真】廃棄された家財の中に人形などが供えられていた

【写真】生活家財などの廃棄物がうず高く積まれていた


◆宮城県仙台市にて


【写真】7月に入っても、余震活動が止むことはなかった。

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続く余震活動

 東北地方太平洋沖地震の余震活動は、その発生回数、発生期間の長さで、過去の地震を大きく上回った。特に4月7日深夜と4月11日夕刻に発生したマグニチュード7クラスの余震は、復旧に向かう中で、土砂災害や停電、鉄道の運休など新たな被害を生んだ。
 なお、余震には当たらないが、和歌山県や熊本県で震度5強クラスの地震が起こっている。

マグニチュード7クラスの地震(本震を除く)

区分 発生時刻 マグニチュード 震 源 最大震度 最大震度観測地
前震 2011年3月9日11時45分 M7.3 三陸沖 5弱 宮城県栗原市、登米市、美里町
余震 2011年3月11日15時08分 M7.4 三陸沖 5弱 青森県八戸市、南部町、五戸町、東北町、七戸町、おいらせ町、階上町、東通村、岩手県盛岡市、二戸市、矢巾町、滝沢村、普代村
2011年3月11日15時15分 M7.7 茨城県沖 6強 茨城県鉾田市
2011年3月11日15時25分 M7.5 三陸沖 北海道釧路町、浦河町、青森県八戸市、南部町、七戸町、五戸町、東北町、おいらせ町、東通村、岩手県盛岡市、一関市、花巻市、平泉町、滝沢村、秋田県秋田市、大仙市、井川町、宮城県仙台市青葉区、大崎市、気仙沼市、登米市、栗原市、松島町、南三陸町、涌谷町、山形県中山町、福島県郡山市、相馬市、伊達市、二本松市、二本松市、須賀川市、田村市、新地町、浪江町、桑折町、茨城県土浦市、筑西市、埼玉県宮代町
2011年4月7日23時32分 M7.1 宮城県沖 6強 宮城県仙台市宮城野区、栗原市
2011年4月11日17時16分 M7.0 福島県浜通り 6弱 福島県いわき市、古殿町、中島村、茨城県鉾田市
2011年7月10日9時57分 M7.3 三陸沖 岩手県盛岡市、矢巾町、宮城県石巻市、栗原市、登米市、美里町、岩沼市、丸森町、福島県田村市、猪苗代町、天栄村
2012年12月7日17時18分 M7.3 三陸沖 5弱 青森県八戸市、階上町、岩手県盛岡市、滝沢村、宮城県栗原市、丸森町、茨城県常陸太田市、常陸大宮市、栃木県市貝町
その他 2012年1月1日14時28分 M7.0 鳥島近海 宮城県岩沼市、福島県いわき市、白河市、田村市、南相馬市、玉川村、茨城県水戸市、日立市、笠間市、取手市、石岡市、坂東市、筑西市、常総市、常陸大宮市、小美玉市、つくばみらい市、茨城町、河内町、栃木県宇都宮市、大田原市、佐野市、鹿沼市、真岡市、野木町、岩舟町、群馬県邑楽町、埼玉県さいたま市大宮区、熊谷市、加須市、鴻巣市、川口市、春日部市、宮代町、杉戸町、千葉県千葉市央区、市原市、印西市、鴨川市、いすみ市、東京都千代田区、神奈川県横浜市中区、二宮町
2013年4月19日12時06分 M7.0 千島列島 北海道根室市、標津町、別海町

震度6クラスの地震

最大震度 発生時刻 マグニチュード 震 源 最大震度観測地 区分
6強 2011年3月11日15時15分 M7.7 茨城県沖 茨城県鉾田市 余震
2011年4月7日23時32分 M7.1 宮城県沖 宮城県仙台市宮城野区、栗原市 余震
2011年3月12日3時59分 M6.7 長野県北部 長野県栄村 その他
2011年3月15日22時31分 M6.4 静岡県東部 静岡県富士宮市 その他
6弱 2011年3月12日4時31分 M5.9 長野県北部 長野県栄村 その他
2011年3月12日5時42分 M5.3 長野県北部 長野県栄村 その他
2011年4月11日17時40分 M7.0 福島県浜通り 福島県いわき市、古殿町、中島村、茨城県鉾田市 余震
2011年4月12日14時07分 M6.4 福島県中通り 福島県いわき市、茨城県北茨城市 余震
2013年4月13日5時33分 M6.2 淡路島付近 兵庫県淡路市 その他

震度5強クラスの地震

最大震度 発生時刻 マグニチュード 震 源 最大震度観測地 区分
5強 2011年3月11日16時29分 M6.5 三陸沖 宮城家大崎市 余震
2011年3月11日17時40分 M6.1 福島県沖 福島県富岡町 余震
2011年3月19日18時56分 M6.1 茨城県南部 茨城県日立市 余震
2011年3月23日7時12分 M6.0 福島県浜通り 福島県いわき市 余震
2011年3月23日7時34分 M5.5 福島県浜通り 福島県いわき市 余震
2011年3月23日18時55分 M4.7 福島県浜通り 福島県いわき市 余震
2011年6月2日11時51分 M4.7 新潟県中越地方 新潟県十日町市 その他
2011年6月30日8時16分 M5.5 長野県中部 長野県松本市 その他
2011年7月5日19時18分 M5.4 和歌山県北部 和歌山県広川町、日高川町 その他
2011年7月23日13時34分 M6.5 岩手県沖 岩手県遠野市 余震
2011年7月31日3時54分 M6.4 福島県沖 福島県楢葉町、川内村 余震
2011年9月7日22時29分 M5.1 浦河沖 北海道新ひだか町 その他
2011年9月29日19時05分 M5.6 福島県沖 福島県いわき市 余震
2011年10月5日23時36分 M4.4 熊本県熊本地方 熊本県菊池市 その他
2011年11月20日10時23分 M5.5 茨城県南部 茨城県日立市 余震
2012年2月8日21時01分 M5.7 佐渡付近 新潟県佐渡市 その他
2012年5月24日0時02分 M6.0 青森県東方沖 青森県東北町 余震
2012年8月30日4時05分 M5.6 宮城県沖 宮城県仙台市宮城野区、南三陸町 余震
2013年2月2日23時17分 M6.4 十勝地方中部 北海道釧路市、根室市、浦幌町 その他
2013年2月25日16時23分 M6.1 栃木県北部 栃木県日光市 その他
2013年4月17日17時57分 M6.2 三宅島付近 東京都三宅村 その他
2013年5月18日14時48分 M5.9 福島県沖 宮城県石巻市 余震

※出典:気象庁発表データ(2013年5月20日現在)

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放射性物質の飛散と除染

 福島第一原発事故に伴い、原子炉から放出した放射性物質は、福島県内のみならず各地に飛散した。放射性物質とは何かという知見すらなかった私たちにとって、そもそもその危険性が、どの程度なのかを認識できなかった。
 折しも、あるテレビ番組で、私たちの暮らす地域に放射性物質の飛散が及んだことを、ある大学教授が取り上げた。その発言に対して、市長が抗議する出来事があり、ネット上で賛否が飛び交った。今になって思うに、大学教授の見解は正しかったとしても、テレビ出演での発言である以上、一定の「ことば遣い」への配慮が必要だったのではないのか。少なくとも放射性物質は、有害物質ではあっても、有毒物質ではない。
 私たちは、この地域の放射線量の計測に携わった訳ではないが、結果的に、農産物の出荷規制を余儀なくされた人たちがいて、除染の対象になった地区があった。私たちは、この時になって初めて、原発事故と無縁ではないことを実感した。
 私たちの周囲の初老の知人たちは、「20年後に影響が出ても、もう死ぬ年だべや」と笑っていた。私たちは、目には見えない物質の、そもそもの危険性と、どの程度の安心が担保されるのかを、知る所から始めざるを得なかった。
 環境省福島県では、放射性物質と放射能、放射線への正しい理解を住民に促すため、ホームページに解説を掲載している。

解説

◆飛散した放射性物質

 環境省が公表している『放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成29年度版)』によると、環境中に放出された放射性物質の代表的なものとして、キセノン133、ヨウ素131、セシウム134、セシウム137などを挙げている。

◆セシウム

 同上資料によると、人の健康への影響を考慮すべき放射性核種の代表とされている。固体から液体に変わる融点が28℃のため、多くは微少な粒子状になって遠くまで拡散した。半減期(放射能=物質が放射線を出す能力=が弱まり、はじめの半分になるまでの時間)は、セシウム134が2年、セシウム137が30年。

◆キセノン

 同上資料によると、気体になる沸点がマイナス108℃と低いため、約60%が希ガスになって環境中に放出された。半減期は5日と短い。すでに放射線を出す能力は消滅か。

◆ヨウ素

 同上資料によると、2~8%が環境中に放出された。半減期は8日。ヨウ素は、甲状腺ホルモンの原料となる物質で、甲状腺に蓄積されやすい。海藻などに含まれるため、日本人は必要量を満たして摂取している人が多いとされる。余分なヨウ素は、体外に排出される。すでに放射線を出す能力は消滅か。

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 2011年9月

 東日本大震災がもたらした被害が、どの程度に及んだのかという実態の把握には、長い時間がかかった。今なお、そこに示され数値が、厳密な意味で正確とは言い切れない。亡くなられた方、家を失われた方、避難されている方。その数が極めて多いことは、誰もがわかっていた。だが、数値化されたデータは変動を繰り返した。
 その間に、「震災関連死」と呼ばれる犠牲が増え、避難先を転々とする人たちがいることがわかって来た。巨大地震や巨大津波、原発事故は、ある意味では一瞬の出来事だったが、「震災」は、長い期間に及んだ。

人的被害と住宅被害

東日本大震災で亡くなられた方の数

 東日本大震災で亡くなられた方は、「震災関連死」を含めて、全国で約2万人に上った。2016年2月末日現在の各県公表データによると、宮城県で1万558人、岩手県で5,132人、福島県で3,735人の死亡が確認された。このほか、茨城県で65人、千葉県で23人の方が亡くなられた。
 また、行方不明になっている方の数は、岩手、宮城、福島3県を中心に、同日現在で2,356人だった。亡くなられた方の数と合わせると、約2万2千人に上る。
 右グラフは、東日本大震災で犠牲になられた方の市町村別の数を示している。3千人を超える方が犠牲となった石巻市(宮城県)のほか、陸前高田市(岩手県)、気仙沼市(宮城県)、東松島市(同)、南相馬市(福島県)が1千人を超えている。また、福島県の原発避難地域では、「震災関連死」で亡くなられた方が極めて多くなっている。
 関東地方では、津波の被害に見舞われた茨城、千葉両県のほか、栃木県で起こった土砂災害や首都圏での建物の倒壊などで、複数の犠牲者が出た。
 この地震による人的被害が及んだ地域は、北海道から関東地方まで、東日本のほとんどの地域に広がっている。

用語の解説

◆震災関連死

 復興庁の2012年5月の公表資料によると、「東日本大震災による負傷の悪化等により亡くなられた方で、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき、当該災害弔慰金の支給対象となった方」を指す。

※注)
 右グラフの「震災関連死」で、亡くなられた方の数が少なく、グラフ表示が微弱な市町村は割愛した。
 3人以上の市町村は以下のとおり。
岩手県 盛岡市6、遠野市4、奥州市3
茨城県 那珂市3
長野県 栄村3

※下のラベルをクリックすると、該当する棒グラフを非表示にできます。

他都道府県から来訪して亡くなられた方

 東日本大震災では、仕事や旅行などで被災した地域を訪れている中、亡くなられた方々がいた。地元の地理に詳しいか、不案内かのちがいはあるにせよ、災害時の来訪者の避難は、多発傾向にある自然災害への備えとして、考慮する必要がある。
 私たちは、震災後に岩手、宮城、福島の各警察本部が公表した亡くなられた方のリストを元に、3県沿岸部の被災地域とその方の居住地から、来訪者の被災分析を行った。下グラフは、その結果を示している。最新の数値とは異なる可能性が高いが、犠牲の及んだ範囲を示すために公開する。

※データ集計の出典:岩手県警察本部、宮城県警察本部、福島県警察本部が公表した『身元が判明した方の名簿』(2011年9月末日現在)

 岩手、宮城、福島3県のグラフは、それぞれの居住地ではない隣県などを訪れ、被災された方の数を示している。いずれにせよ、来訪の範囲は、北海道から関西地方、海外にまで及ぶ。また、同一県内から被災した地域を訪れている中で、犠牲になられた方々もいた。いずれの場合も、犠牲になられた方にとっての被災地域は、地元ではない。
 居住地外からの来訪の目的は、仕事、旅行、親族への訪問などが考えられる。仕事や親族への訪問は、地元の地理をある程度理解している可能性があるが、旅行の場合は、その可能性が低い。その避難を宿泊施設や旅行業者に一任する以前に、行政的対策は不可欠と言える。

亡くなられた方々の年齢

 東日本大震災で亡くなられた方々の年齢は、65歳以上のお年寄りが60%近くを占めた。近年の自然災害でも、お年寄りが犠牲になるケースが多く、「災害弱者」ということばまで生まれている。
 私たちは、震災後に岩手、宮城、福島の各警察署が公表した亡くなられた方のリストを元に、亡くなられた方の年齢分析を行った。右グラフは、その結果を示している。
 私たちの集計結果では、65歳以上の方の占める割合が67.1%、そのうち80歳以上が26.7%となった。この年齢層は、避難しようにもからだに障害があり避難できない、避難に時間が掛かるなどのリスクを抱えている割合が高い。結果として犠牲になる割合が高くなった。また、男女比で女性の割合が高く、高齢女性の災害時の避難が課題の一つとして浮かび上がる。
 一方、40歳~64歳の壮年層の割合が、27.3%を占めた。この年齢層は、いわゆる「働き盛り」の年齢だが、避難誘導などに携わった結果としての被災が、数字に現れている可能性がある。男女比もほぼ同率で、性別を問わない結果になった。
 こうしたことから、全体の85%を占めた40歳以上の災害時の救命対策が、大きな課題として浮かび上がる。


※データ集計の出典:同上『身元が判明した方の名簿』(2011年9月末日現在)

住宅への被害

 東日本大震災では、多くの住宅が被害をうけた。警視庁の集計によると、全壊12万6千棟(消防庁集計12万9千棟)、半壊27万2千棟(消防庁集計27万棟)に上った。また、地震後の住宅への応急危険判定の結果、約3万6千棟の建物が「危険」または「要注意」の判定を受けた。
 下グラフは、警察庁が平成25年(2013年)5月27日現在で集計した都道県別データを元に作成した。宮城県が際立って高く、福島県、岩手県、茨城県の被害が大きくなっている。住宅への被害は、津波による流出や損壊のほか、がけ崩れや地盤沈下、液状化などの地盤災害、地震の揺れによる損壊などがあった。

※グラフが表示されていない都道県は、下ラベルで一方のグラフを非表示にするとデータ表示できます。

※出典:内閣府『平成23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)について』(平成25年5月28日)

住宅の被災率

 住宅への被害は、その後の住民の避難生活と深く関わっている。全壊や半壊、または、その後の応急危険判定で「危険」と判定された住宅への居住は、住民自身に何らかの対応を迫った。遠方への避難、仮設住宅への入居、転居など、個別の選択は異なっている。
 私たちは、岩手、宮城、福島の3県について、各県が公表した住宅被害と震災前の世帯数から、地域別の住宅被害の割合を計算した(福島県の原発避難地域を除く)。住宅数と世帯数は、必ずしも合致しないが、地域がうけた被害の程度を推測する上で、一つの指標になると考えた。
 この指標は、その後の地域の人口変動とも連動している。私たちは、災害による遠方への避難や転居は、選択肢の一つであり非難されるべきではないと考えている。避難先や転居先での生活に、簡単に馴染めるとは考えにくく、「被災」に変わりはない。
 しかし、災害によるダメージから、地域の再生が求められることも確かだ。そのためには、ダメージの程度を多くの方々が認識し、再生への支援に繋げて行く必要がある。

住宅被害率が高い市町村と人口変動

単位:%
市町村 住宅全半壊率 人口変動率 備  考
大槌町(岩手県) 73.4 -23.02
陸前高田市(岩手県) 51.9 -15.20 大規模なかさ上げ工事
山田町(岩手県) 47.9 -14.99
野田村(岩手県) 30.4 -10.43
女川町(宮城県) 82.5 -36.98 住宅被害率が最多
東松島市(宮城県) 79.2 -7.92
山元町(宮城県) 63.1 -26.28
南三陸町(宮城県) 62.7 -29.03
石巻市(宮城県) 57.2 -8.46 人口減少数が多い
気仙沼市(宮城県) 43.4 -11.57
いわき市(福島県) 25.7 2.33 原発避難指示区域から転居
新地町(福島県) 23.4 -0.07
南相馬市(福島県) 23.9 -18.46 避難指示区域を含む

※出典:各県公表の住宅被害データ及び2011年3月現在の世帯数より算出
総務省『平成27年国勢調査』(前回調査値を含む)より算出

まとめ

 東日本大震災の被害は、ここに掲載した以外にも多岐にわたる。港湾や船舶への被害、事業者がうけた建物や設備などへの物理的被害のほか、生活再建や事業再建に関わる経済的被害、健康や心の問題に関わる被害と、その範囲は極めて広い。また、原発事故がもたらした電力エネルギー供給の問題は、今も多くの課題を突きつけたままだ。いわゆる「風評被害」の問題も、ここでは取り上げなかった。
 私たちの東日本大震災に対する試みは、ささやかな試みにしか過ぎない。だが、震災後も多発している自然災害の脅威を見る時、そこで起こった出来事によって、再生への長い道のりが待っていることに、目を向けて頂くきっかけになれば幸いである。

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謝  辞

 このページを作成するにあたり、官公庁データを中心に、さまざまなデータを活用させて頂いた。データの収集、集計に当たられた方々の労苦に敬意を表すると共に、参照させて頂いたことに、この場をお借りして謝意を表する。

2018年11月15日
シンキング・バーズ
 代表 遊佐 芳泰